1994/1/14 藤井猛四段—鈴木輝彦七段(竜王戦)

感想

鈴木輝彦七段との戦い。

藤井四段の四間飛車に、鈴木七段は5筋位取りから☖5二金左として徹底的に抑え込もうとする形。

藤井四段は☖5五歩に対してさっと☗7五歩と7筋の位を取って三間飛車に振り直し、一方的に抑え込まれないようにした。

お互いの主張がぶつかりつつも、序盤は長い駒組が続いた。藤井四段が銀冠に組み替えるところ、☗3七桂を先に跳ねなかったのは、後手の金銀が5~7筋に偏っているため、☗3八飛からの反発も視野に入れていたのもあるだろうか。ただ鈴木七段も☖5二金~☖4三金と4筋に金を上げてきたためそんなことができる形でもなくなった。最後まで☗3七桂と跳ねなかったので、別の意味もあるかもしれない。

鈴木七段の金銀が4~6筋にかけてすべて三~四段目まで上がっており分厚い。それでも序盤の☗7五歩を活かし、☗7六銀~☗8六角~☗6八飛~☗6五歩~☗7七桂と6筋からの総攻撃態勢が整った。駒を交換していけば後手陣には隙が多い。一方的に抑え込まれないようにした序盤の駒組みが参考になった。

62手目☖5九角は嫌な角打ちではあるが、☗6七飛☖6六歩にも強く☗同飛!と取って問題ないと見ている。

☖7七角成☗6一飛成☖7六馬は瞬間銀桂損ではあるが、それよりも後手陣に竜が侵入している方が大きい。鈴木七段は☖6四歩と辛抱したが、藤井四段も☗7八歩と打てた。次に☗6九飛で角が死ぬ。しかし、藤井四段は☗6九飛とはしなかった。角は取れても、☗5九飛の未来がないこと、角2枚では後手玉を寄せづらいというのがあるかもしれない。

本譜は☗2四歩が絶品の味。この玉形においてしばしば見られる手。藤井四段が良さそうであるが、しかしこの後の☗9二歩成☖同飛☗5六歩は難解過ぎる手順。☗5六歩に25分掛けているのもあり、もしかしたら予定変更が生じていたのではないかと思う。雲行きの怪しさを感じた。

鈴木七段の84手目☖4二金は銀の引き場所や☖4三玉からの逃走ルートを作ったものだと思うが、後手の飛車を☖8二飛に戻して☗4四歩がまた絶品だった。☗2四歩も☗4四歩も打った垂れ歩ではなく盤上の歩を動かしたもの。そういう手を厳しく入れることができるのは実に効率的が良い。ここはまた息を吹き返したと感じる。

90手目に☗6九飛☖9五角成という順が出た。なるほど、☖9五馬は働くまでに時間が掛かりそうだ。

95手目☗2三角。決めに行っている。☗3四角成の瞬間は後手玉が遠く、後手からの猛攻が予想される。一瞬怖いが、藤井四段は着実に見切って寄せた。本局の☗3五香~☗2二銀~☗6一馬という寄せは見えにくかった。

☗2三歩成まで入る上手い寄せだと思った。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

66手目☖6六歩☗同飛!の局面は先手良し。さすがの大局観だった。しかしその後先手の手の流れが難しいと感じたところは後手の方に振れていた。藤井四段に何か誤算があったのかもしれない。☗4四歩が入っても後手の方に振れているのは意外だった。90手目☖9五角成あたりから再び先手に向かい始める。後手としては☖5九角は取らせ、先手玉を攻めるのが良かったようだが、その時に☗5六歩が入っているため、☗5九飛と取らせても飛車が働く見込みがあるのが大きい。最後の方も☗9九飛としたときに☖3三金打という手もあるようで難しい点数になっているが、こちらも意外だった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第7期竜王戦ランキング戦4組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)