1992/6/23 内藤國雄九段—藤井猛四段(王将戦)

感想

多才の名棋士、内藤國雄九段との対局。自在流と名のつく内藤九段の将棋は大らかで面白く、好んで何度か並べたことがある。藤井四段にとって大ベテランとの戦いという感じではあるが、本局の内藤九段はまだ52歳。今の藤井九段と変わらないし、何よりこの時内藤九段はA級から降級した直後のB級1組だった。58歳でB級2組に降級するも、59歳でB級1組に再昇級する。内藤九段、尋常ではない。

本局は『振り飛車党宣言!①新感覚の四間飛車』に藤井五段による自戦記がある。

戦型は藤井四段の四間飛車に内藤九段の棒銀。途中、藤井四段に早めの☖3三角という手が現れた。

おそらく形を決めたくないという理由で☖3三角ということだとは思うが、いつか藤井先生には☖3三角のタイミング講座を開いていただきたいと思っている。

結局☖6四歩を突くことになり、内藤九段はそれを見て棒銀を採用した流れを感じる。そして棒銀に対して藤井四段が採用した形は最強の棒銀対策と言われる☖4二金型だった。『近代将棋』を見ていると、藤井四段は中学生のころからこの☖4二金を研究していたことが分かる。藤井四段にとって最も馴染みのある形の一つだと思われる。

☗2四歩☖同歩☗2二歩に対し、☖2五歩は習いある切り返し。先に桂損するが、棒銀の形がひどく、後手が良さそうに見える。しかし、実際は☖7四歩の代わりに☖1四歩と突いておけば、先手は☗1五銀すら出ることができない。後手の角の活用が見込める☖7四歩が緩手とは難しい。実際、この後内藤九段はこの棒銀をなんやかんやと中央まで持っていった。そして拾われた桂で☗8六桂の味が生まれている。言われれば言われるほど内藤九段の仕掛けが機敏だったことが分かる。藤井四段の結論は「先手の仕掛けは成功」ということだった。

そして本局最も面白かったのは、2一に作ったと金を2七まで引いて使う内藤九段の構想だった。

まさかあのと金で銀を取られることになろうとは!そして竜もあまり利かない三段目に行かされてしまった。これを実現させてしまった☖5三金が、これまた緩手ということだった。

瞬間的に銀損だが、それでも飛車を一方的に捌いている藤井四段の方が良く見えた。☗9四桂を良いタイミングで外し、自陣の憂いをなくして94手目☖7五歩が筋中の筋で気持ちの良い手。

その後の決め方も☖3五角~☖5七角成と自陣の角を寄せに使う気持ち良い手が続いた。

振り返ってみると藤井四段に疑問となるような手は一つもなかったのではないかと思わせる完璧な指し回しだった。そう思って自戦記を読んでみると、実際には☖7四歩や☖5三金のような緩手があったことが分かる。それで将棋に対するイメージがガラッと変わったりする。やはり自戦記や観戦記のような解説付きの棋譜というのは非常にありがたいものだ。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

基本的には後手に振れているようだった。藤井四段の指し回しが素晴らしかったのは間違いないようだ。ただ、と金を引いていくところは先手に舞い戻ろうとしている。面白い手でかつ有効的。驚異的だ。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!①新感覚の四間飛車』(毎日コミュニケーションズ)

棋戦情報

第42期王将戦一次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)