1992/11/12 藤井猛四段—中田功五段(新人王戦)

感想

中田功五段との一戦。前回のこのカードは矢倉(千日手)、横歩取りと意表の相居飛車シリーズになった。本局は藤井四段の四間飛車に中田五段の居飛車となり、安心して並べられる戦型となった。

中田五段の構えは天守閣美濃~米長玉銀冠。一方藤井四段の方は、☗2六歩は早かったものの、☗3九玉型ではなく、☗3七桂も跳ねず、☗2八玉~☗4七金と普通に高美濃に組んだ。この後の構想に着目していたが、☖7四歩の瞬間に☗5八飛と寄り、中央からの動きを見せた。中田五段もこの動きに対応し、☖6四歩~☖6五歩と仕掛け、藤井四段もさらに☗2五歩と突っかけ激しい将棋になった。先手は銀冠ではなく高美濃であるため、☗2五歩は少し迫力がないように見えるが、☗2四歩☖同銀☗4六角の筋を狙っている。

中田五段はその筋を避けるためか、角が向かい合った時、角交換避けて☖1三角とのぞいた。☖7九角狙いではあるが、あまり見ない筋だ。それに対して角成を受けずに☗5五歩とさらに攻めて行ったのは驚いた。確かに角成に☗5九飛で受かっている。しかし☖2四馬で後手の銀冠はさらに分厚いものになった。

本局、ここからの藤井四段の指し回しは絶品だった。

53手目☗5六銀の形は、玉の堅さや馬の厚みを差し引いてもなかなか立派な形。57手目☗2七歩は究極の渋さだが、後手に良い手がないことを見越している。そして角交換を果たし、要に見えた☗5四歩を取らせている間に、逆に☗4六に馬を作った。ついさっきまで後手陣だけが分厚かったが、67手目まで来ると、高美濃対4枚美濃であるにもかかわらず先手玉の方が厚い。この一連の手順にはただただ感嘆するばかりだった。

その後は後手の小技にも丁寧に対応しながら、☗4六馬、一段飛車、☗2五桂、端歩の組み合わせでひたすら急所を突く形で寄せた。☗5四歩は取らせても、3~4筋の位があれば十分だった。

本局は藤井四段の名局と思った。後に藤井システムと言われる形でなくても、藤井将棋は卓越したセンスのある玉頭戦を見せてくれる。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

やはり右肩上がりに藤井四段が良くなっていた。先に角を成らせても逆に厚みを築けるという、藤井四段の大局観と読みに感動した将棋だった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!④四間飛車対左美濃』(毎日コミュニケーションズ)

棋戦情報

第24期新人王戦本戦(主催:赤旗、日本将棋連盟)