1993/4/23 飯野健二六段—藤井猛四段(王将戦)

感想

飯野健二六段との対局。

戦型は藤井四段の四間飛車。対して飯野六段は玉頭位取りを目指した。☗6八銀の局面は現代ではエルモ囲いの狙いになるが、当時は玉頭位取りだ。

藤井四段は☖4四銀型に組むのでもなく、石田流にするでもなく、26手目☖5四銀とあまり見掛けない手を指した。ここから通常の玉頭位取りを目指したとき藤井四段の構想がどのようなものだったか気になるが、飯野六段はすぐさま☗6五歩と角交換を挑んだ。

この手は☖8八角成☗同玉のとき、王手飛車のラインが生じるので居飛車も2筋交換ができる訳では無い。それに4筋の位も大きそうで、☖5四銀よりも意外な手だった。藤井四段も意外だったか、96分考えて構想を練り、角交換に応じた。

とにかく通常の玉頭位取りの将棋ではなくなった。藤井四段は4筋の位を武器にどんどん駒を打ち込み、相手玉を薄くした。その中で指された☖5四歩が抜群の味。

飛車の横利きを通しながら角頭攻めを見せる。しかし飯野六段も腰の入った受けを見せる。振り飛車の攻めはこれ以上ないものだったと思うが、73手目☗6六角と歩を払われた局面はいつの間にか先手玉が堅くなっており、厚みもできている。これで居飛車が良いのであれば、☗6五歩が機敏だったということか。

75手目☗6四桂に☖同飛は非常手段気味に見えるが、☖8四桂〜☖7六桂で勝負しようとしている。☖2八歩の入れ方も参考になる。

96手目☖8二玉も参考になる手。直接的には☗6三桂を緩和しているが、将来角を渡す攻めを敢行したとき、☗4四角という攻防手も緩和している。これもまた抜群の味だった。こうした受けの勝負手も見せて藤井四段が築いたのは、極めて分かりやすい後手玉の詰み条件だった。例えば106手目の局面は桂馬さえ渡さなければ良い。

この条件をクリアしながら先手玉に喰らいついていく。116手目、端玉には端歩という基本的なセオリーで詰めろになっており、いつの間にか藤井四段の攻めがヒットしていた。

本局は藤井四段の☖5四銀から激しい戦いになったが、終盤美濃囲いに手を入れたことで詰み条件や速度計算を分かりやすくしたのが達人の技だと思った。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.1/1手15秒)

なんと大逆転したという将棋だったようだ。ポイントは107手目の☗8九金のようだ。

そもそも、そこまで先手が良くなっているとは思わなかったし、飯野六段にそこまで悪い手があるとも思わなかった。それほど藤井四段が厳しく攻め立てていた。それだけに、自陣に手を入れる手が印象に残る将棋だった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第43期王将戦一次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)