1993/10/26 藤井猛四段—沼春雄五段(順位戦)

感想

沼春雄五段との順位戦。ここまで藤井四段は3勝1敗、沼五段は2勝3敗。昇級に向け負けられない戦いが続く。

本局、藤井四段は三間飛車を採用。沼五段は6筋からの仕掛けを見せつつ天守閣美濃に囲い、陣形差と主導権どちらも主張しようとしている。そういえば持久戦調の将棋で☖6四歩と突く将棋はほとんど見なくなった。

沼五段の天守閣美濃に対し、藤井四段はいわゆる「対左美濃藤井システム」の形ではないが、31手目☗2六歩~桂跳ねとあくまで玉頭からのカウンターを狙っている。

沼五段は6筋ではなく7筋から仕掛けた。☗5七銀型のため7筋が薄いと見た。沼五段が飛車先の歩を交換しにきたとき、☗6五歩がやはり気持ちの良い捌きの手筋。42手目☖4四角は厳しいラインだが、後手の飛車の位置が悪く逆先の受けがある。この時得た手番で☗2五歩が入った。すぐ潰せるわけではないが、玉を☖2四に引っ張り出しておけば、☗4五歩~☗4六角など攻めの手が生まれやすい。

54手目☖3三角。沼五段は斜めのラインを急所と見ているようでしつこく攻めてくる。一方藤井四段は57手目☗2四歩と玉頭にちょっかいをかけ続ける。お互いの主張が激しい中盤になっている。この☗2四歩はギリギリの利かしだが、今度は☖同玉と取れず大きな拠点ができた。中央で銀がぶつかっていたが、藤井四段がふっと銀をかわした手が後手の飛車に当たるのは、飛車の位置を咎めた格好で気持ちが良い。これで先手も飛車が捌けた。

68手目には後手待望の☖9九角成。ここで得た香車が☖2六香と使われた。☗2四歩の裏を突かれており厳しい。☖4六銀と合わさって先手玉も怖い形になってきた。

72手目☖3三馬の局面は一瞬手厚いが、☗2五桂~☗7七角で今度は藤井四段がこのラインを制することになった。☗2四歩が大きな役割を果たしたと言える。☗6三竜も中途半端な位置だったが、王手や金取りでじわじわと使えるようになった。

この間にと金を作られ銀を剥がされたが、☖2五馬の位置もまた中途半端で、藤井四段は自玉が寄らないことを読み切っていた。90手目☖2四馬で再び先手玉が危険になったが、☗2一金とまたも一段金の寄せが出た。

玉を1三まで追いやれば、☗2五桂~☗3三角成で馬をずらしながら受け無しに追い込むことができる。先手玉は怖いが寄らない。自玉の危険度を見切りながら寄せる見事な終盤だった。

これで順位戦は4勝1敗。早い段階で1敗を喫したが、好成績で折り返せた。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

難解な形勢がずっと続いていたようだが、斜めのラインを逆に制してからは一気に差を広げた。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第52期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)