感想
先崎学五段との戦い。本局に勝てば二次予選進出が決まる。
この将棋は『振り飛車党宣言!③居飛車穴熊対策編』に自戦解説が掲載されている。
藤井四段は四間飛車。先崎五段は玉側の端歩を受けて☖5三銀型に構え、持久戦か右銀急戦かはっきりしない。そして24手目☖7二飛と仕掛けを見せて、☖3三角から居飛車穴熊に組みに行った。
まるで「一歩竜王」として有名な藤井猛竜王-羽生善治五冠戦(2000/12/25-26・竜王戦)における羽生五冠の呼吸のよう。そのイメージがあるので組みあがった後☗5六歩~☗5五歩と仕掛けていくのかと思ったが、本局は☗5六銀~☗4七銀と固め合って勝負する構想だった。
65手目は駒組みの飽和点。藤井四段は☗9六香~☗9七角と、角頭をケアしながら角を攻めに参加させたのが上手いと思った。☖4二金寄と少し穴熊が乱れたこともあり、先手銀冠は後手陣に負けない固さになっている。先手十分な序盤だったと思う。
65手目の局面から先に仕掛けたのは先崎五段。☖9五歩~☖9一飛は☗9七角が浮いた瞬間を狙われた感じがしてなるほどの仕掛け。これをまともにくらってはいけないので藤井四段も玉側の端に味をつけて反撃する。すぐ☗1五歩を入れることができるのが端歩突き合い型における振り飛車のメリット。しかし自戦解説によると☗1五歩は疑問で、すぐ☗5三角成から先手が良くなる順があったようだ。それでも後手から香車や飛車を走っていきたいところ、先手から☗9三歩成と成り捨てたのが面白い。☗8二銀という手を見ている。
しかし本来ここに打ちたい銀ではないはずで、勝算があるのか苦しいと見た受けなのかすぐ判断がつかなかった。おそらく、端から飛車を成られてはいけないことはもちろん、この将棋は端が戦場になるため銀より香の価値の方が高いということもあると思う。
95手目☗1三歩が入ってやはり振り飛車の方が良さそうに見えてきたが、ここに至るまでは後手良し→形勢混沌という流れだったようだ。本譜は☖5二金が守りに参加できていないのが大きいように見える。107手目☗4八金上が離れ駒を消して渋く、☖1七歩成も怖くなくなった。戦いの最中、自陣に入れる一手は非常に好み。123手目☗1九香と打った手を見て、75手目そっぽに打った銀の顔が立ったと思った。藤井四段が上手く進めている。
125手目☗4五歩も凄い。後手から突きたいところだと思ったが、先手から突いた。馬は自陣に利き、後手玉へのラインも見えてきた。しかし後手の飛車も先手陣に利いてくる。151手目☗3八同玉はいかにも怖い形だが、藤井四段は寄らないと見ている。
実際、☖4八金☗2八玉☖4七飛成に☗3七金と打った形が堅い。見事な見切りだった。
本局もやはり藤井四段が居飛車穴熊相手に主導権を握りながら進めて行けた将棋だったと思う。リスクの高いような手も多く、並べていて非常に面白かった。
評価値
100手近くまで概ね難解な形勢だったが、並べていて基本的には先手が指しやすい局面が続いていたのではないかと思った。しかし自戦解説によると双方疑問手があり、後手が指しやすい局面もあったと言う。自分で並べた後解説があると勉強になることが多い。しかし藤井四段の将棋の作りは端の味付けや小駒の補充など、攻めを続けやすい形を作れている。そして要所に出てくる自陣の手入れ。穴熊ではないのに勝ちやすく負けにくい将棋にするのが上手いと感じる。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
- 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!③居飛車穴熊対策編』(毎日コミュニケーションズ)
棋戦情報
第42期王座戦一次予選(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)