感想
前田祐司七段との戦い。約4年ぶりの戦いで、対戦成績は藤井五段の1勝0敗。
藤井五段は☗7六歩☖3四歩☗9六歩の出だし。相振り飛車も見据えていただろうか。前回の対戦同様、前田七段は居飛車を選択し、22手目☖3五歩で玉頭位取りを明示した。藤井五段は☗6六銀型で対応した。
48手目の局面、4三の地点を空けているのが前田七段の工夫か。これなら後の☗5五歩☖同歩☗同銀☖5四歩☗同銀☖同銀☗5五歩に☖4三銀と引ける。そこで藤井五段は実に80分の時間を費やし☗4五歩と位を取った。
安易に☗6九飛と引かなかったことで☗4八飛と回ることができ、4筋に集中砲火を浴びせようとしている。
前田七段は☖3二銀~☖4二歩と手持ちの駒をすべて自陣に埋め、徹底防戦の構え。ここまでされると一気に踏み込めない。藤井五段は☗4五銀~☗5六銀と垂れ歩を払い、ゆっくりした流れにした。歩得であること、☖2二角があまり使えていないことから、ここは先手有利になっていると思う。4筋に主張点を作り、相手の対応によって柔軟に局面をリードした上手い序盤だった。
前田七段は☖1二玉と、玉を遠く、固くしてバランスを取ろうとする。それを見て再度攻撃開始。75手目☗6一銀は思い浮かばないが、いかにも藤井流の一着。
後年増えてくる印象だが、藤井五段はこういう意外な引っ掛けから手を作ることがある。本局の☗6一銀は☖6二飛なら☗5七飛が歩切れを突いた厳しい一手になるが、☖5一飛ならどうなるかは分からなかった。前田七段の選択は☖9二飛。これにも☗5七飛が厳しいが、さらに☗5五飛~☗8五飛という構想を見据えていたことが盤上に現れて感動した。☖8二飛はやむを得ない対応だが、☗4三歩成~☗5三飛成~☗2二角成の大捌きが実現した。さらには☗7一角が残っている。藤井五段が優勢になったと思う。
ここからの藤井五段の指し回しも絶品。金銀を入れ替えて97手目☗5一飛と、単に飛車を打ちおろした手が厳しい。5三の金取りを味良く受ける手がない。☖4三金と寄るしかなかったが、飛車に引っ掛けた☗6一銀を☗5二銀不成と活用できた。さらに8二の馬を☗7一馬~☗3五馬~☗5三馬~☗3一馬と活用したのも良い。この間、前田七段が指せた有効的な手は☖6九飛だけであり、差がさらに広がったように思う。108手目、前田七段は☖2二金と埋め、徹底防戦の意思は変わっていない。金銀4枚の固い囲いが出来上がった。
しかし109手目☗1五歩。
藤井五段は真正面から敢然と攻めた。決めるべきところに決めに行く、藤井将棋の好きなところのひとつだ。そしてその手の流れ通り、ぴったり一手差で勝ち切った。見事な勝ち方。
評価値
もっと先手が良い印象だっただけに、互角に近い時間があったのが意外だった。対局者の心理はどうだっただろうか。再び先手に振れたのはやはり8二の馬を歩を拾いながら3一まで活用できたことだった。☗5八歩のついた美濃囲いが一瞬堅く、一方的に攻めて行けたのは、やはり振り飛車が勝ちやすいパターンだったのではないかと思う。
なお、☗6一銀に☖5一飛の場合、ゆっくり☗7二銀成から☗6二成銀や☗8一成銀を狙って十分ということだった。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第21期棋王戦(主催:共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟)