1995/5/20 藤井猛六段—行方尚史四段(早指し新鋭戦)

感想

戦友、行方尚史四段との初対戦。藤井猛-行方尚史という関係はとても一言で語れるものではない。

「パンツはなんでもいい」藤井猛九段と行方尚史九段が、米長道場で切磋琢磨していたころ | 観る将棋、読む将棋 | 文春オンライン
藤井猛九段と行方尚史九段は、ともに1986年、プロ棋士の養成機関である奨励会に入会しました。棋風も性格も対照的な二人は、以来、友情を育んできました。 文春将棋ムック『読む将棋2021』に掲載されたル…

藤井六段と長年指してきたからか、行方四段は絶品の振り飛車破りを見せる。この将棋の戦型は藤井六段の四間飛車に行方四段の天守閣美濃。既に藤井六段の天守閣美濃破りが広まっているところに行方四段が天守閣美濃を採用したところに、行方四段の自信を感じさせる。

本局28手目☖1二玉。藤井六段は公式戦で初めてこの局面を迎える。そもそも後手天守閣美濃が少ない。先手の対左美濃藤井システムは☗2六歩が簡単に間に合うので、後手対左美濃藤井システムに比べて楽に攻撃態勢を組める印象がある。

本局は29手目☗4七金と上がったことで、☖4四銀~☖3一角とされ☗8八飛と回らざるを得なくなった。この順は対左美濃藤井システムの定跡が整備されてきてからは見られなくなった。行方四段が☗4七金を機敏に咎めたと言える。先手対左美濃藤井システムは☗1八飛と端飛車に回る定跡が有名だが、それは本局の反省を踏まえている。

とは言え形勢が悪くなっている訳ではない。お互いにがっぷり銀冠に組んで、中央の歩の小競り合いから戦いが始まった。59手目☗5六銀までいくと先手の模様の方が良く見え、藤井六段が上手く対応したように思う。

そして手にした歩で☗2五歩から玉頭に戦線を拡大した。先手は☗3七桂型で攻撃力があり、後手は☖3三銀型で守りが強い。それでも攻めて行くところに藤井六段の思想がある。玉頭から攻めて行くための組み立てだった。

73手目☗1三歩に☖8一飛は驚いた。今端攻めをされているのにじっと飛車を引いて手を渡すとは。藤井六段はいよいよ端から殺到したが、どうも決定打にならないか。☗2五桂と☗1五香が取られてしまいそうだ。☖8一飛は攻めてもらって駒を蓄える狙いだったのだろうか。しかし藤井六段はなんとか細い攻めを繋ぐ。113手目☗3三銀不成は詰めろ。対して☖8二飛の受けは☖8一飛と引いた手を後悔させるようで、これなら先手がいけるのではないかと思った。115手目は☗4二歩だったらどういう将棋になっていただろうか。適当な受けが見当たらない。本譜は☗1三角成だったが、☖5五角が厳しい手になっており、☗3九玉は☖6六角と出られるのが意外にも受けづらい。☗4九玉は☖4七香不成~☖3三角があるし、右に逃げるのは詰む。☖5五角や☖6六角には結局歩を使って受けざるを得なかったところに誤算があったかもしれない。歩を使ったことで☖1一銀の受けが発生した。これで後手玉に寄りがなくなっている。

それでも藤井六段は諦めることなく、金銀を投資して飛車角を奪った。しかし渡した金銀で後手は強い受けを繰り出しやすい状態になり、ついに寄せを見出すことができなかった。最後は後手に攻めるターンが回り、そこで投了となった。

短時間将棋らしい大熱戦だった。序盤不本意な形を強いられた藤井六段だったが、中央で歩を手にし、手にした歩を玉頭戦に使って優位を築くという、王道のストーリーを作り上げた。細い攻めを見事に繋いだと思ったがギリギリのところで行方四段のカウンターを喰らった印象の最終盤だった。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

やはり中盤は藤井六段が有利になっており、細い攻めを繋いだところは勝ちに近づいていたようだ。しかし115手目☗1三角成で大きく後手に傾いた。代えて☗4二歩はあったようだが、本譜でも勝ちだと思っていたのが誤算だったと想像する。ただしその後も巻き返して再び先手優勢に持ち込んでいた。最後のチャンスは130手目☖1四金打の局面で、☗3五竜という手が示されていた。☖3三歩で一見手がなさそうだが、☗2三角☖4三玉☗5八飛と、遊んでいた飛車を活用する絶好の手順があった。しかし秒読みの中、とにかく駒を使って受け続ければよい後手の方針は分かりやすく、既に流れは後手に傾いていたのではないかと思う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 藤井猛著『藤井システム』(毎日コミュニケーションズ)

棋戦情報

第14回早指し新鋭戦(主催:テレビ東京)