感想
今月2度目の深浦康市四段戦。前局では痛い敗戦を喫した。
戦型は深浦四段の居飛車に藤井四段が「5筋位取り中飛車」を採用した。藤井四段がプロになってから初めての「5筋位取り中飛車」採用である。今では「ゴキゲン中飛車」と言われる戦型と思うが、1997年までその名は無かった。『藤井猛全局集 竜王獲得まで』の戦型欄でも「5筋位取り中飛車」と記載されている。
藤井四段は左金を早めに繰り出し、☗5六に金を据えて力強い戦陣を敷いた。いかにも藤井四段好みだ。55手目、お互いの駒組みが充実した辺り、この将棋におけるポイントは先手の5筋の主張であることは明らかで、先手の作戦が効果的であったことが分かる。この5筋を起点に様々な手が生まれそうだ。一方、後手の主張点は乏しいように見え、藤井四段の作戦勝ちだと思う。
そこから多少角を組み替えた後に指された65手目☗4五歩は、満を持して仕掛けた手に見える。対して深浦四段の72手目、☗4四歩からのさらなる抑え込みを避けたものか、☖5四同銀左という意表を突くような受けを見せた。しかし☗3四金とすり込んで、先手としては最高の展開になったと思う。
そして流れるように端攻め。仕掛ける前に組み替えた☗6八角は、☗4六角ののぞきだけではなく端も見ていた。そしてそして、香を吊り上げて、87手目☗2五桂と思いきや☗8五歩が上手い!☖同飛なら☗1三角成~☗8六香を見ており、さらに飛車を取った手が8一の桂取りになっており、どんどん攻めが生まれそうだ。この歩は取れないと深浦四段は飛車を引いたが、四段目から飛車がいなくなったことが大きい。
105手目☗5三歩もまた上手い。最後の☗5四香~☗4三銀も見事な寄せ。非常に狭い範囲だがなかなか見えにくい、しかしパズルのような綺麗な寄せだった。
本局は藤井四段の好手がたくさん生まれた藤井四段の名局だった。特に87手目☗8五歩が端攻めとの組み合わせであることや、四段目から飛車をどかす一石何鳥にもなるような手で印象に残った。お気に入りの一局。
評価値
中盤以降、ぐんぐん突き放していく藤井四段らしい曲線を描いた。見事な藤井将棋だった。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第23期新人王戦本戦(主催:赤旗、日本将棋連盟)