感想
千日手指し直し局。お互い約1時間30分の持ち時間で再開した。
指し直し局は藤井四段の四間飛車に所司五段が居飛車穴熊を選択した。対する藤井四段の作戦は立石流への組み替えであった。これまでも立石流を目指す指し方は現れているが、対居飛車穴熊で☗7六飛の形まで組んだ形は本局が初めてとなる。
この後、7筋の歩交換から☗7五飛と引き、☗9七桂と合わせて飛車交換を狙うのが『四間飛車を指しこなす本 第2巻』にも書いてある進行。本局の藤井四段も☗7五飛と引いたので同様の進行になると思ったが、☖9四歩に☗9六歩ではなく、☗6七銀とした。☖9四歩☗9六歩では何か懸念があるのだろうか。大駒交換の雰囲気が漂う駒組みだったが、一転じっくり囲い合うような展開になった。確かに囲い合いであれば、後手が手詰まりになりそうに思える。
ところが一転、所司五段は角金交換の駒損で強引に飛車を成り込んできた。
無理攻めと思いたいが、☖5五金の拠点は大きく、うるさいのは間違いない。この後竜切りで☗4九銀を取り、後手はさらに駒損の攻めを繰り出してきた。「穴熊の暴力」と思わせる攻めだ。
そして迎えた97手目の局面は、一瞬後手の攻めが遠のき、先手に勝ちがあっても良い局面に見える。渡しても良い駒の制約も比較的分かりやすい。しかし藤井四段の残り時間は2分。
制約を乗り越えながら詰めろを掛ける手段があれば良いが、私レベルでは分からず難しい。☗1四桂の後の☗6四角は上手い攻防手だと思ったが、☖3七金~☖5三銀~☖2五桂が上手い対応で、逆に先手玉に詰めろが掛かっている。後手玉は詰まず、藤井四段の負けとなってしまった。
本局は所司五段の実戦的な指し回しが印象的だった。藤井四段の方が良く、最後もチャンスがあったと信じたいが、自力では藤井四段勝ちの変化があるかどうか分からなかった。並べていて非常に悔しい一局だった。
評価値
無理攻めに思えた所司五段の強襲は、悔しいが、評価値上では成立していたようだ。98手目の局面もチャンスがあったかと思ったが、評価値上は後手良し。しかし☗1四桂に対する手堅い☖4一香が疑問と出ていて、☗6四角の代わりに☗1四歩という手があったという。同じように☖3七金☗同香☖2五桂とすると、角を持っているので☗1三角から詰むという仕組みだ。ただ☗6四角でもまだ先手が良いと出ていて、☗4六角☖2五桂となったとき、今度は後手玉が詰まず後手の勝ちになったようだ。☗4六角の代わりにやはり☗1四歩があると言い、☖3七金☗同香☖6四銀なら☗1三歩成から後手玉が詰むという。しかしこの変化は「角は渡せない」という制約があったため、詰みを読み切らない限りは踏み込めない変化だ。最後の最後までどちらが勝つか分からない将棋だったが、106手目☖5三銀は読みにくい手で、時間に泣いた部分もあったように思う。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第41期王座戦一次予選(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)