1995/4/6 藤井猛六段—佐藤義則七段(竜王戦)

感想

1995年度の幕が開ける。対穴熊藤井システムが誕生し、藤井将棋が完全に独自色に染まっていく年でもある。2006年度、藤井九段が藤井システムを封印し、藤井矢倉や角交換四間飛車を始めたのは、苦しんで苦しんだ末の決断だった。対左美濃藤井システムや対穴熊藤井システムはもっとポジティブな空気のまま生まれているところに違いがある。対穴熊藤井システム誕生までの過程を楽しんでいきたい。

対戦相手は佐藤義則七段。過去2戦行い藤井五段の2勝。前局は藤井五段がひねり飛車を目指した珍しい将棋だった。本局は相振り飛車模様だったが、佐藤七段の☖7四歩~☖6四歩を見て55分の長考の末、☗2六歩と居飛車にした。長考の本筋はすぐ明らかになり、☗6五歩~☗7五歩~☗5五角~☗7八飛という反撃を見せた。

☖7四歩~☖6四歩は矢倉を組みに行く普通の手だが、それを咎めに行った。実に若々しく、勢いのある攻めだ。藤井五段の場合は序盤の少しの隙も許さない強い意志があるようにも感じる。

34手目までいくと一瞬攻めが受け止められているが、☗7六銀の二の矢がある。しかしこの瞬間は一瞬後手陣に響きが無いので後手も反撃してくる。☖3三桂~☖4五桂は足の速い桂馬を使って攻めの糸口を作る常套手段。それに対して☗7九角は絶品の受けだった。☖5七桂成と3五の地点に利かしているのが良い。

先手好調のように思えたが、46手目☖6六歩とじっと突いたのがじんわり効く手で、☖6七歩成があるため7六の銀を捌けない。

そこで☗5八金左と受けたのは自然だが、3七の桂馬を取られて☖6七桂と打たれる筋も残っており、結局7六の銀を前に捌けなかったのはつらい。さらに最終盤で玉の脇腹が開いていたのが致命的になった。☖6六歩は良い手だった。ここは後手が良くなっていそうだ。

7筋だけでは上手く行かないので☗4六歩から☗7九角も使い、攻撃の幅を増やしていく。67手目手に乗って☗4八銀と引いた形は堅く、意外と難しそうに思えたが、念願かなって捌いた飛車を逆に☖8九飛と打たれ、この王手が激痛。☗7九歩は☗3五角の利きを利用した受けだが、妙手☖4四角が出て投了となった。

☗6八角と引いても☖7六歩くらいで負けそうだ。ここで投げるのが美しい。

本局は藤井五段が負けてしまったが、成立するかどうか微妙であっても、若手の内は積極的踏み込み、読みの力を鍛えていくものと思う。その点で良い将棋だった。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

仕掛けた後もほぼ互角であり、悪い仕掛けではなかったと言える。後手に振れたのは自然に見えた☗5八金左のところで、代わりに☗7四歩☖同金☗4五歩☖7五歩☗同銀☖6七歩成☗7四銀☖7八と☗同金という順が示されており、2枚替えで7四に攻め駒を残すこの順は確かに先手が良く思える。しかしと金を作らせても良いと言うのは難しいと思った。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第8期竜王戦昇級決定戦4組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)