1993/1/28 藤井猛四段—土佐浩司六段(王将戦)

感想

早見えの天才、土佐浩司六段との戦い。私は藤井猛ファンでもあり、土佐浩司ファンでもあるので、このカードは個人的ゴールデンカード。

戦型は藤井四段の四間飛車の対抗形。序盤、居飛車穴熊に組もうとする土佐六段に対し、☗4八飛と牽制球を投げた。

☗4八飛戦法は『四間飛車を指しこなす本 第2巻』にも書いてある指し方で、非常に攻撃的な布陣と言える。しかし土佐六段は恐れずにノータイムでどんどん穴熊に囲っていく。藤井四段も結局仕掛けることは無かった。この形にして仕掛けられないのではやや不本意ではないかと思ったが、銀冠に組み替えにいくのを見て、 真部一男八段—藤井猛四段戦(1991/9/20・王位戦)のような形を目指していると思った。

ただ、土佐六段はその組み換えを許さなかった。☗2七銀の瞬間に☖8六歩~☖7五歩~☖9五歩と戦いを起こしてきた。機敏な仕掛けに見えたが、48分の考慮で出た☗9七桂はなるほどの一手。

☗8五桂まで行けば後手の飛車はしばらく捌けない。ただし、「桂の高跳び歩の餌食」となるかもしれないし、何より☗2七銀のまま戦いが起こってしまったのは不安材料だ。形勢はよく分からないが、後手の居飛車穴熊が安定しており、先手が苦労しそうな雰囲気はある。

固すぎる後手玉だったが、藤井四段は左辺と玉周辺とあちこちに手を出す。☗8五桂はやはり歩で取られてしまったが、その間に右桂を銀と交換し、さらに銀で角を取る戦果を挙げた。その間に端も絡めて攻めており、少しずつ玉が露出してきた。藤井四段がうまく手を作っていった。先手玉の不安定さはそのまま残っているが、むしろ妙に手を出しづらくなかなか厳しい攻めが来ない。

痺れを切らしたか、土佐六段がいよいよ☖1五桂と攻めてきたその瞬間、藤井四段が☗1三桂成~☗3三角成と一気に駒を切っていった。

☗3三角成は全然見えていなかったので驚いたが、指されてみればなるほど。☖1五桂は外されることになってしまった。☗3三角成は決め手で、一方☖1五桂は敗着だったかもしれない。

本局は仕掛けたのは土佐六段だったが、その後は藤井四段が攻めて攻めて攻めまくった将棋だった。それほど豊富に手駒があった訳では無く、土佐六段も頑強に受けていたところもあっただけに、攻めが切れないのが不思議だった。藤井四段の攻めっぷりに感動した将棋だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.1/1手15秒)

若干後手寄りとは言え、難解な勝負が続いていた。☗9七桂~☗8五桂を含め、藤井四段の対応が素晴らしかったと言える。大きく振れたのは☖4八銀不成のあたりから。☖1五桂から一気に突き放していった。終盤もまた素晴らしかった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第43期王将戦一次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)