感想
千日手指し直し局。藤井四段2時間8分、川上四段3時間38分の持ち時間で17時10分に対局開始した。
千日手局では居飛車穴熊に組んだ川上四段だったが、指し直し局では急戦を採用。四間飛車対急戦の最も典型的な形と言える☗6七銀型四間飛車と☖5三銀左急戦の対抗形になった。
川上四段の仕掛けの形は☖6五歩早仕掛けであったが、30手目☖6四銀が珍しい手。押さえ込むような急戦だが、四間飛車の最大の武器☗6五歩がダイレクトに銀に当たるため、振り飛車としても反発しやすいと言える。それでも☖6四銀と指したのは、角交換から飛車先交換、さらに☖7九角のような手を狙えるため、居飛車としても攻めていける見込みがあると言うことだろうか。
34手目☖7三銀の局面は☗6五歩と反発すれば想定される局面の一つ。そこで☗7八銀は居飛車の飛車先交換を緩和しながら振り飛車の飛車先を通して味の良い手。☖7九角は残っているが、それには☗6六角が厳しそうだ。☖3三桂には☗3五歩がある。37手目☗6九飛とした局面は振り飛車全く不満無しと思う。後手陣は☖7三銀が中途半端で右桂の活用ができない。
一見居飛車の攻めが無くなったと思ったが、藤井四段が木村美濃への組み替えを行おうと☗4七銀とした瞬間に仕掛けてきた。☗4九金が浮いているこのタイミングが仕掛けの最後のチャンスと言えるかもしれない。
この仕掛けにより、後手は角銀交換の駒損ながら飛車を成り込んだ。先手陣が不安定なのが後手の主張。しかし☗8五角には☗7七桂の紐がついているため、妙に安定している。
59手目☗9六角打が素晴らしい一着。狭いところだが☗5二角成と☗7八金を見ている。63手目にはついに木村美濃を完成させた。藤井四段の対応は見事だった。
しかし川上四段としても攻めを止めるわけにはいかない。4筋に垂れ歩を作るが、ここからの藤井四段の受けもまた素晴らしかった。71手目☗6七角が盤上の駒を使った味の良い手。と金を防ぎ☗8九飛という活用も生まれている。そして藤井四段がどんどん飛車をぶつけ、川上四段が飛車交換を避ける手順が続いた。先手陣は飛車交換に弱そうだったが、いつの間にか先手の方から飛車交換を望み、後手が避けているのが面白い。この一連の手順で藤井四段は垂れ歩を除去し、79手目には飛車角3枚が後手陣の急所に刺さる図を完成させた。
自陣の駒を動かして受けていただけのはずだが、いつの間にか攻めの形が出来上がっている。盤上の駒だけでこれほど気持ちの良い活用が見られるとは。
終盤は川上四段に駒を使わせながら、自陣を安全にしつつ丁寧に寄せていった。そして123手目☗4八金打は激辛流の決め手。順位戦を3勝1敗とした。
本局は藤井四段の受けと捌きが素晴らしく、随所に印象に残る手が出た。お気に入りの将棋。
結局指し直し局の消費時間は藤井四段1時間51分、川上四段1時間14分で、藤井四段の方が消費時間が多かった。
評価値
比較的早い段階から藤井四段に振れている。藤井四段の快勝譜。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第52期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)