1995/4/27 藤井猛六段—豊川孝弘四段(棋王戦)

感想

豊川孝弘四段との戦い。過去3戦あり、藤井六段の1勝2敗。棋譜並べをするときはなるべく序列通りに王将、玉将を据えるが、藤井六段が王将を持つ機会が増えてきた。

戦型は藤井六段の四間飛車に豊川四段は居飛車穴熊を目指した。対する藤井六段の作戦は☖1二香の瞬間に☗6五歩と角交換を挑む指し方だが、☗3六歩と突いてから☗6五歩は意外な手順で、☗7五歩から石田流に組み替えるのとは別の形を目指していそうだ。

31手目☗7八角!藤井六段の狙いはこの筋違い角だった。

☗3四角と歩を掠め取るだけなら弱いが、藤井六段の構想は遠大であり、☗2六歩~☗2五歩~☗3七銀~☗2八飛と2筋から殺到する筋や、さらには端攻めから1二の地点を狙う筋を狙っていた。実に夢のある構想で、ワクワクする序盤だ。

しかし豊川四段は小考で☖8四飛~☖7五歩~☖7三桂と対応し、2筋と1筋両方に受けを利かせた。これが上手く、藤井六段からのすぐの厳しい攻めがなくなっていそうだ。52手目の局面は打ち歩詰め。☗2六歩から攻めを足していくが☖1三銀とされ、後手の受けが間に合っているように見える。夢のある序盤だったが、うまく受け止められた印象だ。

ただ後手玉は非常に危ない形をしているのは間違いない。78手目の局面は先手は飛車を手持ちにしたが、しかし豊川四段は自玉に問題がないことが分かっている。藤井六段はついに☗6三角成~☗7三馬と角の直射から方針転換し、左辺の桂馬を拾い☗3四桂を狙った。しかし☖1二玉の早逃げでやはり受けが間に合っている。それでも☗3四桂が飛んできた。☖3三金右に☗5二竜~☗5一馬~☗4一馬が物凄い手順で、☖2七歩成を恐れずに攻めて行った。確かに☖2七歩成☗同飛☖同香成が先手玉への詰めろになっていないかもしれない。それであれば☗3二馬で勝ちだ。この筋があるので☖2一香の位置は動かせない。藤井六段がうまく勝負形に持ち込んだように見える。

そこで96手目☖7六歩は衝撃的な一手。

つい2筋からの攻めを考えてしまうところだったが、この銀を動かすことが急所と見た。しかしこの瞬間後手玉に寄りは無いのか。

藤井六段は☗2二歩から桂香交換し、結局☗6六銀とかわした。後手玉を寄せに行く手は無かった。後手は手にした桂馬で☖5四桂から銀を取りに行き、左右挟撃を目指せる形になった。藤井六段もさらに迫っていくが、112手目☖3六銀が決め手。

熱戦を落とすことになったが、面白い序盤だった。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

54手目☖1三銀の局面は居飛車の受けが間に合っており後手が良いと思っていたが、実際にはほぼ互角であった。飛車を取った辺りは難解だがどちらかと言えば先手寄り。☗5二竜~☗5一馬~☗4一馬は先手の勝負手と思っていたが、当然の手だったかもしれない。ただし☗4一馬の瞬間に一気に後手に振れていた。代わりに☗2二歩☖同香☗同桂成☖同金☗4五歩という手が示されており、その後☗3五香や☗3七桂という手があり攻めが続く。☗4一馬も厳しそうに見えたが、馬は3三の地点に利かせておいた方が良かったようだ。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第21期棋王戦(主催:共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟)