1995/5/26 森内俊之八段—藤井猛六段(IBM杯)

感想

佐藤康光前竜王を破ってIBM杯準決勝を森内俊之八段と戦う。森内俊之八段とは過去3戦全敗であり、前回のIBM杯でも準決勝で森内八段に敗れた。

本局は自戦解説掲載譜。

この将棋は序盤にやや駆け引きがある。まず3手目の☗4八銀は振り飛車決め打ちの一手。昨年度の森内俊之七段戦(1994/8/9・王将戦)でも類似の手順が現れており、その時藤井六段は☖8四歩と居飛車にした。自戦解説を読むと☗4八銀について「指された方はムッとする」とあって感情的だ。藤井将棋には理論的な側面と感情的な側面が両方備わっており、それもまた面白い。本局は冷静に☖4二飛と四間飛車を明示した。

そして☗9六歩に端を受けずに駒組みを進めたのが本局のポイント。自戦解説には端歩に関する藤井理論が少しだけ展開されている。藤井語録に「端を重要視しない」という言葉があるが、これは端歩を伸ばされても伸ばされたなりの将棋の作り方があるという意味だ。お互い端を突かない形、突き合った形、振り飛車が位を取った形、取られた形、全ての形において、誰よりも研究した上での「端を重要視しない」という言葉には重みがある。

森内八段は☗3七桂~☗4五歩の仕掛けを狙うが、飛車の位置を細かく調整して丁寧に仕掛けを封じた。仕掛けられない森内八段は天守閣美濃に移行した。何気ないようでもこの飛車の動きが序盤の急所だった。

37手目☗1五歩の意味は難しかったが、自戦解説で触れられていた。結局森内八段は両方の端の位を取る形になり、その間に藤井六段は6筋の位を張って金を進出させることができた格好になった。この☖6四金はあまり見ない形だが、☖7五歩☗同歩☖8五歩☗同歩☖7五金と進めば玉頭を押さえられる。普段高美濃ではないため、この☖6四金は通常出現しない。

そこで森内八段もいよいよ☗2四歩~☗4五歩と開戦した。藤井六段も☖5五歩~☖7五歩と反発。さらに6筋と8筋でも歩がぶつかり、盤面全体で戦争が始まった。後手玉の方が戦場に近いため振り飛車好調を思わせる。しかし実際の形勢は難解なようだ。

63手目☗6二歩が悩ましい叩き。☖7一金だと☗2四飛~☗2一飛成~☗9四歩~☗9二歩~☗9一角という筋を心配しなくてはならない。本譜もそのように進んだが、しかし☗2四飛が甘く、先に☗9四歩~☗9二歩の方が厳しいと言うことだった。☗2四飛に☖3三角がカウンターで、☗2三飛成で4三の銀を狙ったが、☖6六歩と押さえることができたのは大きい。さらに☗6六同銀☖同金☗3三龍のとき、一度☖7六金がいかにも良い手で、こういう手を逃さないようにしたい。

終盤は中段の2枚飛車が先手玉を睨む形になり、森内八段が金銀を埋めて頑強に粘ろうとしたところ、112手目☖8九角成~☖8五桂打がスマートな寄せだった。序盤から終盤まで、藤井六段の良いところが存分に出た好局。

佐藤康光前竜王、森内俊之八段という難敵を下し、IBM杯決勝に進出した。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第7回IBM杯戦準決勝(主催:毎日新聞社、サンデー毎日、日本将棋連盟)