感想
後に新人王戦決勝でも対戦する畠山鎮四段との初対局。珍しく前局から1か月以上あき、1993年に入った。ここまでの順位戦成績は畠山四段が3勝4敗、藤井四段が6勝1敗。藤井四段は昇級圏内にいる。残り3局。このまま好成績を維持できるか。
戦型は藤井四段の四間飛車に畠山四段の天守閣美濃。天守閣美濃が大流行している。藤井四段は後に対左美濃藤井システムと言われる形。この形に対し、これまで居飛車は☗9八玉と玉頭攻めから遠ざかる指し方が多かったが、本局畠山四段は☗3八飛と急戦を見せた。
この手には今でこそ☖6三金という手が定跡になっているが、それは藤井四段の後の研究の成果によるもの。当時は本譜のような☖4五歩が常識的な手だった。
しかし角交換後、自然な進行で後手が困っている。居飛車は銀冠に組み替えられたのに対し、振り飛車は銀冠に組みにくい。一段玉で玉頭攻めを狙う布陣は、攻めを重視した形ではあるが、居飛車が動いてきたところで玉頭攻めを狙うカウンターが基本的な攻めになる。本譜のように角交換後じっと駒組みをされては動きづらい。藤井四段は☖8二玉~☖8三玉~☖9三玉を繰り返す苦しい手順を強いられた。
攻める権利を一方的に得た畠山四段は銀冠+☗3七角という十分な態勢を整え、満を持して攻めてきた。藤井四段は端に活路を求めたが、いつもとは逆でこの端攻めを逆用される形で追い詰められてしまった。
内容も、順位戦の勝敗としても、悔しい負けだったに違いない。☖6三金と指した佐藤康光竜王戦(1994/7/21・王将戦)の自戦解説では、本局を「苦い思い出」と書いている。
しかし藤井四段が素晴らしいのは、本局でもしっかり時間を使い、この後☖4五歩という常識に立ち向かっていったこと。次にこの局面が現れる将棋が楽しみだ。
評価値
もっと先手に振れているかと思ったがそうでもない。藤井四段の辛抱が良かったとも言えるが、数字以上に振り飛車が勝ちづらい将棋だったと思う。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第51期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)