感想
神谷広志六段との一戦。
前回の対局では石田流に棒金だったが、本局は藤井四段の四間飛車に神谷六段の棒銀となった。
藤井四段の構えは「対棒銀の最強布陣」と言われる形。『四間飛車の急所 第3巻』に詳細な解説がある。ここから☗9八香など手待ちが続く。手待ちは☖6四歩を突かせる狙いがあるが、それでも後手の勝率が悪くない定跡になっている☖3三桂の反発が振り飛車らしい。
50手目は☖4五桂が『四間飛車の急所 第3巻』の教えだが、本譜は☖5五歩。この歩が切れればより☖4五桂が効果的になり、欲張った手と言える。結果、銀桂交換に持ち込むことができた。しかし代償に先手の飛車筋が通ってきて若干気持ちが悪い。局面としては後手が指しやすいと思うが、油断はならない。
65手目☗5二歩は☖同金なら☗4四飛~☗7一銀の狙い。しかしなんと、藤井四段は堂々と取った。
☗7一銀は怖くないということか。神谷六段もまだ飛車を切らず☗9五歩とした。今度こそ☗4四飛が厳しい。藤井四段は☖4二金左☗3一飛成を入れて、またも堂々と☖9五歩と取った。
本局は藤井四段の堂々とした指し手が印象に残る。しかしいよいよ☗4四飛が飛んできた。そこで藤井四段はじっと☖5一歩。部分的に見れば銀をボロっと取られた格好ではあるが、手の流れは藤井四段の予定通りと思わせる。形勢も後手が悪いとは思えない。駒割りとしては後手桂損だが、☗2六銀が遊んでいることや、盤上の飛車2枚では後手玉に届きそうにないことが要因としてありそうだ。
82手目☖1八馬が香車を取りながら飛車当たり。この香車は手待ちの間に上がった香車で、手待ちを上手く逆用したと言える。続く☗5二飛成に☖同金とできるのが☖4二金左を入れた効果と分かる。藤井四段の用意周到さに唸るばかりだ。
90手目☖9三玉の形は斜め駒を渡さないと相当寄らない形で後手が勝勢に近いと思う。攻防に☖6三馬と自陣に引き、一段飛車と組み合わせて収束に入った。
藤井四段、棒銀に対し見事な指し回しだった。本局は『振り飛車党宣言!①新感覚の四間飛車』に棋譜が載っている。タイトルは「☖4二金型の会心譜」。
評価値
☖4五桂と跳ねた局面は既に後手に振れており、将棋ソフト的にも後手が良いと言っている。意外と先手に振れているところは☖9五歩と取ったところで、☗4四飛の後、☗3四飛ではなく☗6四飛~☗9四桂があるということだった。言われてみればなるほどという手だが、すぐ☖5五角が飛車に当たるので短時間将棋では☖6四飛はすぐ切り捨ててしまいそうだ。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
- 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!①新感覚の四間飛車』(毎日コミュニケーションズ)
棋戦情報
第43回NHK杯争奪戦予選(主催:NHK、日本将棋連盟)