1993/5/6 藤井猛四段—植山悦行五段(竜王戦)

感想

植山悦行五段との戦い。

1991年度の順位戦では植山五段は居飛車急戦を採用したが、本局は相振り飛車になった。伝統的な向かい飛車対三間飛車。囲いは先手金無双、後手は高美濃に組んだ。

37手目、植山五段の☖3六歩に、なんと藤井四段は2時間12分も考えていた。

☖3六歩☗同歩☖同飛☗3七歩としたときに、その後先手がどう主張点を作っていくかは難しそうに見える。☖3六歩☗同歩☖同飛に☗3七銀とすれば駒組みに発展性が生まれるが、☖5四銀からの攻めにどう対応するかを考えないといけない。確かに考えどころかもしれない。それにしてもこの局面で2時間超えの長考は若者らしい贅沢な時間の使い方だと思う。こういう実戦の思考の積み重ねが今の藤井九段を作っている。

本譜は☗3七銀。やはり積極的に主張していくのが藤井将棋。植山五段は石田流+☖4五銀の形で非常に攻撃力のある態勢を築いた。☖1三角も成り込む権利を得ている。しかしこの局面は藤井四段の想定局面に違いない。どう対応するか。

まずは☗5四歩で桂跳ねを牽制した。植山五段はそれでも桂馬を跳ねてきたが、その瞬間☗8四歩~☗6四歩の反撃が入った。☗5四歩は飛車の横利きを消す意味もあった。そして59手目からは飛車が六段目にいるにもかかわらず☗8五歩の継ぎ歩を敢行。

☖同歩に☗8四香だが、☖8五同歩は飛車取り。植山五段はしっかり守り切れば必ず手番を得ることができるので、駒をしっかり投入しながら受けようとする。

しかし、植山五段にはついに攻め続けるほどの手番は回ってこなかった。藤井四段の攻めがそれを許さなかった。65手目、飛車取りにもかかわらず☗9五桂!次に☗8四歩からの攻めがあるので☖7二金は仕方ない。そこで☗5三歩成~☗8四歩~☗5五馬~☗5六馬という流れるような攻めが決まった。

この後☗9五桂も☗5六馬と連動して☗8三桂成が実現した。

結局、先手陣への攻めは☖2五桂と☖3六銀だけであり、さらに取られそうだった☗8六飛は決め手の☗6六飛に使われた。

後手としては最も理想的な攻撃態勢を築いたにもかかわらず、藤井四段は攻めるという手段でその攻撃を緩和することに成功した。それでも飛車が六段目にいる状態での継ぎ歩攻めや、飛車取り放置で☗9五桂等、並ではない手が多く出た。藤井四段の見事な攻め、見事な将棋だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

後手が理想的な攻撃態勢を築いても、後手が良いという訳では無かった。藤井四段の大局観と深読みが素晴らしい。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第6期竜王戦昇級者決定戦5組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)