感想
佐藤秀司四段との戦い。1か月も経たず再戦することになった。本局は藤井四段にとって第42期王座戦初戦。
本局は『振り飛車党宣言!④四間飛車対左美濃』に自戦解説が掲載されている。
戦型は藤井四段の四間飛車に佐藤四段の天守閣美濃。藤井四段が☗3九玉型を見せると、佐藤四段は玉頭攻めの圧力から逃れるべく☖1二玉型銀冠へ。よくある流れとなった。
この形は中田功五段戦(1992/11/12・新人王戦)等でもあったが、先手は高美濃、後手は銀冠であるにもかかわらず、上手くバランスが取れているのが面白い。先手も銀冠に組みたいはずだが、仕掛けを誘発して組めない。しかし後手が仕掛けても、高美濃で十分対抗できるということだろう。本局も☗9八香☖9二香という間合いを図るような手が続いた。ただ☖9二香は、将来的に飛車で香車を拾うような展開になった時、先手にとって得になっている可能性がある。
実戦は後手からの仕掛けが無い形になり、藤井四段も銀冠に組み上げた。
54手目の局面は後手の角が使いづらそうだが、それよりも桂馬の活用を優先し、先手の攻めを完全に受け止めようとする意図があると思う。『振り飛車党宣言!④四間飛車対左美濃』には、☖3三桂と跳ねないと☗2五歩からの仕掛けがあったため、それを封じた意味があったということが書かれてある。☗6八角が好着想だったようだ。
ここから藤井調の金の進軍が始まる。飛車の援護を背に、☗4六金~☗5五金と出ていった。後手は鉄壁の守りの布陣のはずだったが、藤井四段は真正面から飛車角金桂の攻めを展開し、後手の銀冠をあっという間に崩した。
先手陣も薄くなっているが、玉の近くにと金も作っており先手の攻めは成功していると見て良いと思う。しかし『振り飛車党宣言!④四間飛車対左美濃』を読むと、途中の☗2五歩は指しすぎであった可能性が示唆されている。本譜☗3三桂打からは軌道修正だったようだ。この辺りは自戦解説がないと分からないが、自戦解説があるよってより面白く感じるということでもある。解説があると言うのは本当にありがたい。
90手目☖3七歩からは後手の反撃。こういう手は冷静に対処しなければならないが、自分の実戦ではなかなか上手くいなせず、混戦にしてしまうことがある。藤井四段は堂々と☖4五桂を打たせ、最後は遊び気味だった☗6七銀を使って見事に受け切った。
本局は藤井四段の快勝譜と思う。特に中盤以降、後手陣への攻め、後手からの反撃に対する受け、最後の寄せと、すべて素晴らしいと思った。
評価値
概ね印象通りの評価値だった。金の進軍からは徐々に右肩上がりになっており、やはり中盤以降の攻めが素晴らしかったということだろう。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
- 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!④四間飛車対左美濃』(毎日コミュニケーションズ)
棋戦情報
第42期王座戦一次予選(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)