1994/4/19 藤井猛五段—窪田義行四段(棋聖戦)

感想

窪田義行四段との対戦。窪田四段は1994年4月デビューの棋士で、これが2局目。

戦型は窪田四段の四間飛車に藤井五段が居飛車。窪田四段が☖8二玉と入ったのを見て藤井五段が天守閣美濃に組んだ。

29手目☗3八飛は畠山鎮四段戦(1993/1/19・順位戦)等でもあった揺さぶり。畠山鎮四段戦では藤井五段が四間飛車を持っており、☗3八飛に☖4五歩と突き、☗3三角成から作戦負けに陥った。本局は畠山鎮四段戦とは☖8二玉型か☖8四歩型の違いがあるが、窪田四段が☖4五歩と突いた手に藤井五段は☗6六歩と角交換を拒否した。

☖7一玉型の場合、☖4五歩に☗5五歩と止め、☗3五歩~☗3七桂から捌きに行く順が『藤井システム』(毎日コミュニケーションズ)で解説されており、この捌き合いは☖7一玉の位置が悪いとしている。本局は☖8二玉型のため、捌き合いではなくじっくり囲い合い、4枚美濃と高美濃の囲いの差を主張しようと言うのが藤井五段の狙いだろうか。

42手目、☗3六歩と突いているためずっと気になっていた☖5五歩からの仕掛けが発動したが、藤井五段は☗3七桂と跳ね捌きに行った。窪田四段も飛車交換に堂々と応じ、お互い自信ありというような進行。51手目☗4二角成は厳しそうだが、☖5二金が窪田四段らしい力強い金上がり。いったん受かっていそうだが、☗4一飛☖4二金☗同飛成で一見厳しい攻めが続きそうな形にも見える。

しかし56手目☖5四角が好点の角。

☖5五歩とした手も活きており、☖4三銀を守りながら☗8七玉を睨んでいる。ここから☗5五歩☖同角☗4五桂はパッと見える手順で、次の☗5三桂成が厳しそうに見える。先手が良いと思っていたが、じっと☖4七飛成とされると、この竜がまた先手玉を睨む位置で、桂馬を渡すと☖7五桂がある。先手陣は4枚美濃そのままの形であるが、飛車角3枚に睨まれ後手陣よりも危機が迫っている。窪田四段の☖5二金からの対応が抜群で、だんだんと先手をもって自信がなくなってきた。

藤井五段は☗5七金寄から角2枚を先手陣から逸らすことに成功したが、竜の睨みが残っている。70手目☖8五歩が☖8二玉型でも痛烈。この将棋は☖7一玉よりも☖8二玉の方が良い位置になっているのが先手にとってつらい。なんとか玉頭に味をつけるが、86手目☖4五竜となっては大勢が決したように見える。

106手目からは窪田四段が長手数の詰みを読み切り収束。☖8二玉型には☖8二玉型のメリットがあることを教えてくれる将棋だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

捌きあいのところは最大1000程度先手に振れていた。57手目☗5五歩☖同角☗4五桂は味の良さそうな手順ではあったが、代えていちど☗8八玉と睨みから逸らした後、☗9五歩からの端攻めから☗9二金を狙う順が示されていた。確かにこれなら☖8二玉型を咎めることができた手順かもしれない。それからしばらく激戦が続くが、思いのほか後手に傾いていないというのも印象と違った。86手目☖4五竜の局面もむしろ先手に振れている。97手目☗7七桂が落手のようで、☗7七銀上が正着と言う。☖4八飛が詰めろ馬取りなのでダメそうに見えるが、☗7八桂が馬取り。角を入手すれば☗7一角が意外と厳しい。本譜は玉頭に厚みを築いても先手玉に長手数の詰みがあったことがつらい。難解な将棋だった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第65期棋聖戦一次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)