感想
植山悦行六段との戦い。過去の対戦成績は藤井六段の2戦2勝。初対戦の将棋は特に印象に残っている。
植山六段は居飛車急戦、相振り飛車と色々やってくる。本局は角道を開けず、6筋の位を厚くしてきた。振り飛車を捌かせずに抑え込もうと言う作戦だ。『藤井猛全局集 竜王獲得まで』では「右玉模様」と分類されている。
これで本当に抑え込まれてはまずい。藤井六段は13手目にして62分も長考し、☗8八角+☗7九銀型(つまり初形)のまま、☗9六歩~☗7七桂と動きを見せた。6筋の厚みに真正面からぶつかって捌きに行く狙いだ。

早くも6筋から戦いが起こすことができ、27手目☗6六飛は居飛車の☖3四歩保留を咎めた一着。

居飛車は6筋の厚みを目指した展開だったが、振り飛車が位を張っている。また、振り飛車が美濃囲いに入城していることに対し、居飛車は居玉のままで戦場に近いというのも大きい。既に藤井六段が一本取った。
☗6六飛は狭いようで安定している。後手は☖5五歩☖5六銀という悪形をほぐせない。悠々7筋から歩交換し、☗4六歩で銀ばさみを見せた。プロの将棋では単純な銀ばさみが成立することはなく、仮に銀を取られてもそれ以上の駒効率でバランスを保つ。本局も銀が助かりそうにないが、☖8五桂から桂交換し、☖5四桂から銀を助ける順を見出した。
しかしここから藤井六段はスパークしていく。いよいよ☗6四歩を利かせて☗5七歩。6五の地点は後手の駒の利きが多く、☖5六銀は助かったように見えるが、もう飛車をぶった切って☗7一銀~☗6二銀成~☗6三金~☗5三金と☗6四歩の拠点を活かしてガジガジ攻め込んでいった。

このような展開になれば陣形差がとても大きい。後手玉の金銀はすべてはがされてしまった上に、先手の美濃囲いは穴熊のようなもの。この陣形差は飛車金交換の駒割り程度では埋められない。あとは攻めが切れないように攻めて行けばよく、先手が勝勢になった。
藤井六段は角桂を拾い、飛車をいじめつつ玉を狭い方に追いやりながら、さらには美濃囲いの駒を使いながら寄せていった。振り飛車の理想的な展開で完勝。序盤の機敏な動き方が非常に参考になる将棋だった。
評価値

右肩上がりの完勝譜。相手の狙いを真正面から壊しに行きリードを奪う痛快な将棋だった。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第9期竜王戦ランキング戦4組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)