感想
ついに藤井四段の竜王戦が始まる。藤井ファンにとっては愛着のある棋戦。初戦は恒例のアマチュア戦だ。将棋の世界は特殊なもので、奨励会という養成機関を抜けてきたプロ棋士にとって、アマチュア戦というのは絶対に負けられない戦いだと想像する。対局相手は天野高志アマ。前期竜王戦は準決勝まで勝ち上がったとのことだ。
本局は藤井四段の先手三間飛車に天野アマの天守閣美濃になった。35手目☗4五歩の位取りはやはり急所で、本譜はたびたびここを巡る攻防が出てくる。
60手目☖8四角に対し☗7六飛が面白い手。
普通飛車を深く引きそうなところ、ひとつだけ引いた。☖7五歩で先手で飛車を抑え込まれるが、逆にこの歩を目標にする意図があると思う。これは☗7四の歩をなかなか取られない形であることを見越している。
☖4四歩(72手目)~☖6二角は位を奪還しながら☗6六の銀を狙う角の転換だったが、☗7五飛~☗5五歩が余りにもぴったり。
☖6五歩が切り返すような手だが、さらに☗4五歩が切り返しの切り返し。
藤井四段が素晴らしい斬り合いを見せた。『近代将棋』誌によると、天野アマは77手目☗5五歩を軽視していたようだ。
89手目まで行くと角銀交換の駒得で陣形差もあり先手がかなり良いと思う。☖6七にと金はあるが、☖7五の金が完全に遊び駒だ。
そこから寄せに向かっていく藤井四段の指し手は、一手一手ハードパンチを浴びせるような重さがあった。どの手も非常に厳しい。天野アマは受け一方の手で防戦するも、藤井四段はその手を逆用するような形で一方的に押し切った。
藤井四段の完勝譜。夕休前に終局した。プロの力を見せつけたと言えると思う。
評価値
綺麗な右肩上がりでお見事。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
- 小田尚英『竜王戦=アマVSプロ物語 5年間を振り返る』(『近代将棋』1992年3月号)
棋戦情報
第5期竜王戦ランキング戦6組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)