感想
ラス前、伊藤博文五段(2勝6敗)との順位戦。藤井四段は5勝3敗。
本局、伊藤五段は振り飛車党の藤井四段対策として筋違い角を選んだ。藤井四段の筋違い対策を見ることができる貴重な将棋だ。
自分が将棋を始めた頃、筋違い角に対し4筋と5筋に位を取る指し方を教わったことがある。本局の藤井四段もまさにその形で懐かしい。後に藤井先生は『将棋世界』2006年10月号の「イメージと読みの将棋観」で、「☖5四銀と腰掛け銀に組んで4五の位を取る」指し方を披露し「先手勝率1割でしょう」とまで仰ったので、それからは腰掛け銀しか指していない。
伊藤五段は筋違い角を放った後居飛車にし、2三の地点を狙っている。藤井四段は4筋と5筋の位を取った後、菊水矢倉のような形にして2三の地点への守りを万全にした。4筋と5筋の位取りもこうして見ると、角筋を緩和する狙いの他、先手の☗4八銀の活用を難しくしているメリットがあるのが分かる。伊藤五段は歩をぶつけて持ち歩を蓄え、継ぎ譜に垂れ歩であくまで2三の地点を狙ってくるが、上部を厚くしているので☖3四歩で簡単に止まる。先手の攻めを封じて藤井四段の有利がハッキリしたと思う。
62手目☖4四角は好点の角打ち。対筋違い角ではこの角打ちが好手になることが多い気がする。69手目☗7六同銀は伊藤五段の非常手段。☖9九角成と香を取られるが、☗9六角の転回が狙いだった。しかし☗6三角成は怖くないと言うような☖4二飛が冷静な手。結局角は成れず☗7四歩と桂馬を取りに来たが、☖7五歩~☖9四香が激辛の手だった。角が死んでいる。
以下は大差と思うが、飛車を渡して☖4五桂で勝つのはちょっとカッコ良すぎる。最近では見ない4筋と5筋の位を取る指し方ではあったが、筋違い対策として非常に参考になる一局だった。
順位戦は6勝3敗で最終戦に臨むことになった。
評価値
大差と思っていたところはそれほど離れていた訳では無かった。藤井四段が自陣の危険度を把握しながら、着実に優位を拡大していった将棋だったということだと思う。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第50期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)